「動機はどうでもいい。とにかく俺は脳旅行に行きたいんだ。」
そう思って僕は目を閉じた。
かすかに漂う夏の残滓を思い出し、稲穂がなびく通学路を思い出し、真冬の雪道を思い出す。
そうやって場面を切り替えつつ記憶の引き出しを開け続け、脳をフル回転させる。
何百も何千も、頭の片隅にある無駄な記憶を思い出し、目を開けると暗闇に立っている。
ここは自分の脳内だ。僕にはそれがわかっている。ここには以前も来たことがあり、彼女に振られて現実逃避してた時にたまたま辿り着いてしまった。
「やあ、久し振りだね。」と頭部が脳で体は人型の生物が発する。
こいつの事は知っている。
自身を”脳博士“と自称し聞いてもないのに脳の仕組みをつらつらと説明してくる。あまりにもしつこいので嫌悪感を感じずにはいられない。
「お久しぶりです。脳博士。」
彼を慕っているという体裁だけはとる。そういうことだけが上手くなっていく。
「また脳の仕組みを教えてあげようぞ。フォッフォッフォッ。」
…鬱陶しい。教えてくれなくていい。ナーバスな気分だから一人でいたかったのに。そもそも何故、こんな奴が僕の脳内にいるんだろう…?
断れるはずもなく、曖昧な返事をして自称博士についていく。
自称博士についていく…
「着きましたぞ。ここが右脳の中枢部分じゃ。」
「ここでは主に、君の想像力やひらめき力を司ってる部分なのじゃ。試しにこの中に頭を突っ込んでみなさい。」
「え??は、はい…」
「うわぁぁ!!なんじゃこの気色悪いのは初めてじゃよ。狂人じゃないか怖いのぅ。」
「え、はぁ…」
「何を考えておるじゃ。君は本当、能天気なやつじゃのぉ(脳だけに)フォッフォッフォッ!」
(はぁ…)
帰りたい気持ちが募る…
「着きましたぞ。ここは前、紹介出来なかったからのぉ教えてやるぞい」
「……この扉は…??」
「ここには君の危険思想が集積されて出来た怪物を閉じ込めてる部屋なのじゃ。」
「そんな奴が脳の中に…」
「この扉は非常口の役割も兼ね備えておるから、火急の事態にはここを通らなくてはいけないのじゃ。」
「と、通れるんですか…??」
「簡潔に言おう。見つかったら死ぬのじゃ。」
「………。」
「何をビビッておるのじゃ。見つからなきゃいいだけの話じゃ。脳プロブレムじゃ!フォッフォッフォッ。」
「チッ。」
「え??」
(あ、やべっ)
その後も延々と脳の話を聞かされ、ついにオーツ話を切り出す。
「~じゃからここでは海馬が…」
「博士!!」
「ふぉっ!??」
「か、か、帰りたいです…」
「………」
「帰ります…!!」
「なんじゃと…?」
「へ??」
「せっかくこの私が貴重な時間を割いてやったというのに何事か!??」
「………。」
「この私を何と心得ているか。名声をほしいがままにし、教養も貴様とは段違いの脳博士さまじゃ。てめえとは身分が違うのじゃ。この愚鈍でのろまで間抜けな阿呆が。中流家庭の落ちこぼれのくせに私の温情を無下にしやがって。許さん…許さんぞ…!」
「うるさい!行けっ怪物!!!」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!」
「よし倒したぞ…。こいつは俺の危険な思想を集積させて作られた化け物なんだ。こいつを操ってお前を倒すことなんて造作もないことなんだ…。」
「いつまでもくだらないこと言いやがって、二度と顔を見せるな。」
「これで自由だ。ここは俺の脳内なんだ。俺だけの場所なんだ…。」
「…………。」
「脳!!!!!」
おまけ:脳内インタビュー
~脳~