あんたの旦那ってなんかカニに似てるよね。
これは中学校の同窓会で大して仲が良いわけでもなかった同級生に鼻で笑われながら言われた言葉だ。急に鈍器で殴られたような衝撃的な言葉に私は耳を疑った。
私の旦那が蟹に似ている…?今思い出しても腹が立つ。冗談じゃない、その場で旦那がけなされたことに対して謝罪を求めることのできなかった自分にも嫌気がさしてくる。
しかしそのことよりも気掛かりだったのは、周りが妙に納得しているようなそんな印象を受けた。誰も似てないよなんて擁護してくれなかったし、伏し目がちで仲裁に入るだけで私の欲してる言葉を誰もかけてはくれなかった。
みんな気を使って言わないだけで私の旦那はカニに少し似ているのかもしれない。
例え蟹に似ていようが似ていなかろうが私の旦那は家庭のために働いてへろへろになって帰ってくるのだ。それを笑顔で出向かえ、すきっ腹に暖かい料理をぶち込んであげるそれが妻としての役目ではないだろうか?
ピンポーン、ただいま~~
聞きなじみのある旦那のこえだ。今日も家庭のために社会という荒波にもまれ闘ってきたのだ、笑顔で出迎えようじゃないか。
はーい、いま出ますよ~
ただいま~~~
ってかにじゃ~~~~ん!!!!!かに帰ってきた!!!
私の旦那カニなの?カニだったの??カニが過ぎるって。
ってかあの同級生似てるってなに?似てるも何もカニじゃんか。カニそのものじゃんか。
え?てことはなに、私カニの扶養に入ってるの?カニの扶養で入れてる保険証使って私は歯医者で歯石取ったりできてるってこと??配偶者カニ???
おい何をぼけっと突っ立てるんだ?なんか顔についてるのか?
ついてるもなにも顔がカニなのよあんた!!顔がカニすぎることに度肝抜かれちゃってんのよこっちは!
おかしなやつだな、飯ある??
あ…いま準備します…
カニが酒飲んでる。柑橘系サワー二缶いこうとしてる…
はぁ、まったくいつも俺が帰って来るときには、飯を準備して待っていろと口うるさく言ってるじゃないか、なんでそんな簡単なことができないんだ。
は、はいすみません…
それから、出迎えるときは笑顔だ。仕事から疲れて帰ってきてるのにお前の辛気臭い顔見るのは嫌なんだよ。
え、はい…
あと、返事は一回で”はい”だ。”あ“とか”え”とか言わなくていいんだよ。
はい…
こいつモラハラ気質もあるの??
カニでありながら要求がすごいなこいつ。カニなのに亭主関白な一面見してくるんじゃないよ。
そんでもって裏面グロ~~~い
裏面のグロみがすごいのよ、表面はまだ見れるけどもうちょっと裏面がカニすぎるのよ。あなた。もう言っちゃおうかな、亭主関白なくせに裏面が怖すぎるので別れてくださいって言ってしまおうかなもう。
それじゃあいただきます。
飯そうやって食べんの???
もうなんなのよこいつ、これ以上私に突っ込ませるんじゃないよ畳みかけてくるんじゃないよ、そして伴侶を怖がらせるんじゃないよ。
口が裏面にあるから仕方ないとしてもぐろいって、グロみがすごいって。終始グロいってこの蟹。
ご飯ごちそうさま、もう風呂入るから準備して。
は、はい…
一体何なのよ、あのカニ。ものすんごい横柄だし、モラハラ男だし、尚且つ裏面が怖すぎる。なんであんな男と結婚したのかしら。それによく考えたら今までの記憶が思い出せないわ。
おい!シャンプー切らしてるぞ、持ってきてくれ!
すみません…今持っていきます。って…
赤~~~~~
もう赤色のアバターじゃん。赤のアバター現るなのよ、ハリウッドはこいつで一本映画作れ。この赤すぎる体で4Kの映画作ってくれ。
あー熱くていい湯だ、これじゃゆで上がっちまってダシ出ちまうな、アーハッハッハッ!
うわ、蟹ギャグだ!このカニ面白くもないんだ。
今日もちょうどいい湯加減だったよ。
(優しい…)ありがとうございます…
よし、じゃあベッドに入ろうか。
もう??
そんでもって、くっちゃ~~~い♡♡♡
この蟹の化け物とベッドインしたはいいものの、何よこの鼻をつんざくようなカニ臭は。
もう磯の香りがすごいのよ、あんた風呂で何してきたのよもう一回体洗ってきなさいよ。
今日…久しぶりに…するか!
するかーーー!!!!!
何を考えてんのよこのエロ蟹は、元々干ばつチックな私なのにあんたで濡れるわけないでしょうが。
申し訳ないんですけど、今日はちょっとごめんなさい…
ふん、そうかじゃあおやすみ。
断ったら不貞腐れてすぐ寝たわ、やっぱりこいつどこか横柄な部分があるわね。
それにしても今までの私は一体どうやって寝てたのよ。このカニ臭さの中で寝れるやついるのかしら。
んでもって…
こいつ寝相悪すぎる。
あんたの脚のトゲトゲが私のほほに引っかかってるんですけど、これでどうやって寝ろって言うのよ。もう今日は望まないオール確定ね。
~翌朝~
結局、5時くらいに気絶するように寝ちゃったわ…
あの人はもう会社に行ってしまったのね、私寝過ごしてしまったみたいね…
私ったら駄目ね…
彼がカニすぎることにかまけて、主婦としての役割を放棄してしまったわ。彼が蟹であろうが人であろうが私の夫ということは変わりないのに…
もう今日は切り替えてごはんの準備をしなきゃ!
あったかいご飯を用意して笑顔であの人を出迎えよう。そして疲弊して帰って来る旦那を労ってあげようじゃないか、その後夜にお互いの体が火照ってるようなら…ふふふいけないわ。私助べえな女だと思われちゃう!
よしお買い物に行きましょう!!!
~お買い物中~
今日は卵がすごいお買い得だったわ、今日は卵料理たくさん作っちゃお、ってあれ…
誰よあの甲殻類。
私に秘密でエビ頭の女と会ってたっていうの?
私はあなたのために心身ともに捧げて頑張ってきてるというのに、許せないわ…
今日も盛り上がりましたねせんぱい///
それはエビ美ちゃんが豊満でプリっぷりで魅力的な体で我慢できないからだからだよ~もうチューしちゃうchu!
キャーもう可愛いなあ、いつでも甘えていいんですからね、せ・ん・ぱ・い♡
ん-もうまた硬くなってきちゃったよぉ///
先輩ったら本当元気なんだから♡
じゃあまた明日会社で!
はい!今日もかっこよかったです先輩!!
タクシー乗り場まで送ってる…なによあんたはモラハラ蟹のくせに、家では亭主関白ぶってて妻を召使いとしか思っていない横柄な蟹のくせに…
なにタクシーで送ってんのよ、励まし合いやがって許さない…
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない死刑死刑死刑死刑死刑許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない死刑
はあほんとエビ美はいい女だよ、ほんととろけちゃうねもう!!!
うわあ!!!…ってなんだお前か、急に後ろから現れるなよ。
ねえ、あなた、今何してたの…??
な、なにって仕事終わって今帰るところじゃないか。
違うでしょ?私見ちゃったのよ、あなたと甲殻類の女がラブホテルから揃って出てくるところを。
………。
ねえ、あなたほかの女と不倫してたのよね、なんとか言ったらどうなの?
ああ、ああそうだよ!お前がいけないんだぞ!お前がいつも俺の誘いを断るから我慢できなかったんだよ!お前のせいだ!!
そう、認めるのね。…ロス
え?
ぎゃーーーーーーーーあああああああああ!!!
ぶっころしてやるよおらあああああああああああ!!!!!
ひええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
やばいやばいやばいやばいやばいころされる逃げなきゃ
サレ妻の復讐タイムじゃーい!!!待て待て待て待て待て待て待て待てーーーーい!!!
カニは走った。逆鱗に触れた妻の怒りを背中で感じながら、自分の身を案ずるためだけにただひたすらに走った。逃げなければ殺される。額から溢れ出る自身の血をぬぐいながら横歩きのセオリーを無視してカニは走った。
走りながらカニは考えていた。「エビ美」の家に逃げ込もうと。
先ほどまで不倫関係にあった言わば甲殻類の仲間の元へ逃げ込もうと、安直な考えではあったが彼女なら自分を匿ってくれるに違いないという不確かな自信があった。
しかしその考えはすぐに打ち砕かれる。マンションのベランダでエビ美は…
ブラックタイガーの男と抱き合っていたのだった。
エビ美ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!!
衝撃のあまり動揺を隠せない走るカニ。エビ美の有り余る性欲と見知らぬブラックタイガーの男に唖然とし、ついには足が止まってしまうのだった。
はあ…はあ…おれが、おれが悪かった…はあ…許してくれえ!!!
うるさい!!!あんたなんか…あんたなんか!!!うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
一時間後
というわけで旦那…捕獲!!!
改めまして皆さんこんにちは、サレ妻です。
いやあ取り乱したついでに旦那をやっちまいました。
そして御覧の通り、海老と不倫したエロ旦那を討伐し、剝ぎ取った顔面が今ここにあります。
思ったよりちいちゃいね~~~~~
あんた顔意外とちいちゃいのね~首と体が分離してから初めて気づいだけど、顔がちいちゃいのね。
ちなみにこの旦那、種類的には花咲ガニらしく築地で6000円相当らしいです。
おい、離せよ!早く体をくっつけてくれ!
あらあら、なんか蟹がしゃっべってるわね~この小さい姿だとなんだかいとおしくも感じられるわね。
無理やりキスしてやろ。
やめろ…!!いやだ…!!恥ずかしい離せ~!!!
あらあら、あんだけ横暴だったカニ旦那が今はみすぼらしいわね~
この写真加工してSNSに載せてやろ。
やめろ…!そんなダサい加工をSNSに晒すな!!
もう本当にあーだこーだ要望が多いカニね。あんたは私を裏切ったの、逆らう権利はありません。
お前…俺がなんもできないからって調子に乗りやがって…体を取り戻したらただじゃすまさないからな…
鍋にどん!!!
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
煮えろ煮えろ、その熱さが私の痛みだと思って煮えるがいいさ、この蟹野郎。
恥ずかしいね!!!
きれいな紅色に体を染めちゃって恥ずかしいね!
ここからいい感じに紅色に姿を変えた旦那を
当たり前のように切り刻んで…
巧みな調理技術を駆使して、旦那を調理しました。
筋肉質な身は口の中でほろほろっとほどけていき私の血となり肉となっていく。
うんまあ~~~
なにこの蟹から溢れ出るダシは、いったいなんなのよ。しみるわ~~~
私は旦那を食べた、証拠隠滅という名目で旦那の引き締まった身を隅の隅まで食べつくした。そして私は思い出す、旦那だったカニとの日々を。
旦那と初めて会った日…知り合いの紹介であなたと出会ったけど、初めてとは思えないくらい会話が弾んで楽しかったのを憶えているわ。
これはデートは市民プールに行った時。浮き輪で揺られながら楽しそうだったあなたは、この後自分のトゲが浮き輪に刺さって終始不機嫌だったわね。
これは初めて旅行に行ったとき。あなたはバイキングで湯豆腐の旨さに気付いて湯豆腐ばかり食べてたわね。
そんな大切な人をなんで私は…
私ったらなんてことをしてしまったのだろう…
一時の感情に流されて、旦那を食べてしまうなんて…
でもこれだけは言わせて…
これだけは言いたいの私…
やっぱり蟹はおいしいね!!!